大阪から車で淡路島へ|阪神高速と明石海峡大橋を越えて

私は久しぶりのドライブ旅を前にして、少しばかり億劫な気持ちになっていた。
なぜなら、“魔境”とも言われる阪神高速を抜けなくてはいけなかったからだ。
「ふぅ、行くか。シートベルト締めた?」
そう確認すると、私はレンタカー屋からそろりと車を走らせた。
もちろん、安全運転を心がけながら。
カーナビの案内に沿って走るものの、さすが阪神高速。
分岐が多く、「神戸方面」の表示もややこしい。
案の定、道を間違えた。
とはいえ、別ルートからなんとか復帰できるらしい。
普通の高速道路なら、一度降りて入り直しになりそうなものだ。
そう考えると、阪神高速は難易度こそ高いが、意外と懐は深いのかもしれない。
30分ほど走ると、神戸市内へ入った。
ここからは神戸出身の妻のほうが詳しい。
「ここ、昔よく来ててん」
「初デート、この辺やったなぁ」
懐かしそうに話す妻につられて、車内の会話も自然と弾む。
さらに30分ほど走っただろうか。
その瞬間、急に視界が開けた。
目の前に現れたのは、巨大な 明石海峡大橋。
圧倒されるような橋脚の存在感に、思わず声が漏れる。
「代わりに撮ってくれる?」
助手席で妻がスマホを構えた。
私が「もうちょい右!」「今のいいかも!」などと注文をつけているうちに、気づけば橋を渡り終えていた。
「なんかイマイチかも」
そう言いながら妻は撮影した動画を見返していたが、あとで確認すると十分きれいに撮れていた。
きっと、旅の空気感ごと残っていたのだと思う。
ここまで来ると、大阪市内のような“飛ばす車”も減ってくる。
「あ、これなら落ち着いて運転できそうだな」
そう思った頃、いよいよ淡路島へ到着した。
最初に向かうのは、国生み神話ゆかりの地として知られる 伊弉諾(イザナギ)神宮 である。
国生みの神社と、まさかの頭髪感謝

伊弉諾神宮 は、日曜日とはいえ思っていたより人が少なかった。
もちろん立派な神社なのだが、伊勢神宮 のような圧倒的な規模感というよりは、“地元で大切にされている大きな神社”という印象に近い。
とはいえ、「国生みの神社」という言葉のインパクトは強い。
入り口に鎮座する巨大な狛犬も迫力満点で、思わず足を止めて見入ってしまった。
境内を歩いていると、日本の国歌にも登場する「さざれ石」が置かれていた。
「君が代は 千代に八千代に
さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで」
小さな石が長い年月をかけて大きな岩になるように。
大切な人が、末永く幸せでありますように。
そんな願いが込められているらしい。
改めて考えると、ずいぶん美しい歌だなと思った。
二つ目の鳥居を抜けると、大きな池が見えてくる。
「めっちゃ鯉いるやん」
ちょうど餌やりの時間だったようで、水面が見えないほど鯉が集まっていた。
健康祈願として鯉を放流し、願いが成就すると今度は長寿の象徴である亀を放流する――そんな話も伝わっているらしい。
だから池の中央に亀の像があるのか、と妙に納得した。
そのまま歩いていくと、拝殿のほうから笛や太鼓の音が聞こえてきた。
どうやら結婚式をしているようだ。
夫婦神のもとで挙げる式。
しかも境内には樹齢900年の「夫婦の大楠」まである。
なんとも縁起がいい。
「ずっと幸せに暮らしていけたらええなぁ」
そんなことを考えていた、その時だった。
突然、妙に存在感のある石碑が視界に飛び込んできた。
頭髪感謝
「何これ?」
どうやら“神”と“髪”をかけたモニュメントらしい。
しかも石碑には、誰もが知る発毛関連企業の名前がずらり。
厳かな空気の中で急に現れるこの感じ、ずるい。
思わぬインパクトを残しながら、私たちの 伊弉諾神宮 参拝は終了。
次は、淡路島でも有名なお土産スポット たこせんべいの里 へ向かう。
私たちは再びシートベルトを締めた。
🔽伊弉諾神社のシーンから
気づけば1万円。たこせんべいの里は危険だった

駐車場を降りると、大きく「たこせんべいの里」と書かれた建物が出迎えてくれた。
すれ違うお客さんは、みんな大きな紙袋を両手に抱えている。
「これは期待できそうやな……」
そんなドキドキ感が高まる中、私たちの視線を奪ったのがこちら。
本日の試食
「めっちゃ試食あるやん!?」
一気にテンションが跳ね上がる。
中に入ると、一面に並ぶせんべいたち。
どれも美味しそうで、目が忙しい。
さっそく試食コーナーへ向かうと、そこにはハイテクな仕組みが待っていた。
試食箱に手をかざすと、ウィーンと自動で開く。
まるで玉手箱である。
しかも個人用トング制。
感染対策なのだろうが、問題はそのあとだった。
取った試食品を紙の上にどんどん並べていくうちに、何が何だかわからなくなる。
「これ何味やっけ?」
「さぁ……?」
もう雰囲気で食べるしかない。
だが、それでもわかる。
全部うまい。
ところが、地元の猛者たちは動きが違った。
試食担当とカゴ担当に分かれ、
「これ入れて!」
「あっちも美味しかった!」
と、完璧な連携を見せている。
「さすが百戦錬磨の淡路民だ。面構えが違う。」
私は、このあと行く ニジゲンノモリ の進撃の巨人エリアを意識しながら、心の中でそう呟いた。
気づけば、私たちもコーヒー片手に作戦会議を始めていた。
「もう、気になったやつ全部買う?」
旅先では、“当たり”も“ハズレ”も思い出になる。
そう考えると、急に財布の紐が緩くなった。
「あれも!」
「これも!」
「それも気になる!」
気づけば、会計は1万円近く。
1袋500〜800円ほどなのに、恐ろしい吸引力である。
満足感たっぷりで駐車場へ戻ろうとした時、ふと気づいた。
「……ランチまで、まだ時間あるな。」
そこで近くを散策していると、玉ねぎの直売所を発見。
その瞬間、昔の記憶が蘇った。
以前、知人から淡路島の玉ねぎをもらったことがある。
その時、本気でこう思った。
「この玉ねぎ、焼肉より美味しいな」
なので、寄らないという選択肢はなかった。
店頭には、大玉の玉ねぎがずらりと並んでいる。
「重っ!」
持ち上げると、腕がプルプル震える。
だが、これは絶対うまいやつだ。
値段は一袋800円。
少し迷ったあと、私は購入を決意した。
思い出を買うような気持ちだった。
ちなみに後日、塩胡椒だけで炒めて食べたのだが、最高だったことをここにご報告しておきたい。
外では500円の玉ねぎ詰め放題も開催されていた。
袋と格闘する挑戦者たちを心の中で応援しながら、私たちはその場を後にする。
次に向かうのは、予約必須の人気カフェ「ごはんとおやつ ソロル」。
予約は完璧。
あとは、無事に辿り着くだけである。
🔽たこせんべいの里のシーンから
海を見下ろす、予約必須の隠れ家カフェへ

海岸線の通りから一本入った場所に、予約必須の人気カフェ「ごはんとおやつ ソロル」はあるらしい。
……とはいえ、その“一本”がなかなか曲者だった。
細い坂道。
対向車が来たら少し焦りそうな幅。
しかも看板が小さい。
気づかないまま通り過ぎてしまい、さらに後ろから軽トラックまで迫ってきた。
「やば、どうしよう」
慌てながら道を譲り、なんとかやり過ごす。
続いて待っていたのは、第2駐車場探しである。
「どこや……?」
しばらく探したあと、ふと思い出した。
「さっき小さい駐車場あったな」
慎重にバックして戻る。
「あった!ここや!」
小さな看板を見つけた瞬間、ちょっとした達成感があった。
慣れない狭路を攻略し、駐車を終えると、私は大きく深呼吸した。
カフェは高台の途中に建っていた。
2階の窓は、そのまま海へ向いている。
これは期待できそうだ。
店内へ入ると、
「ご予約の方ですね。お好きな席へどうぞ」
と案内された。
席数はそれほど多くない。
20席あるかないかくらいだろうか。
静かな空間の中、窓の向こうには穏やかな瀬戸内海が広がっている。
「贅沢なカフェやなぁ」
自然とそんな言葉が漏れた。
しばらくすると、事前に予約していたランチが運ばれてきた。
この日のメインはエビマヨ。
妻はハンバーグを選択。
どうやらこちらも事前予約限定らしい。
エビマヨを一口食べた瞬間、思わず驚く。
「プリプリすぎん?」
食感がすごい。
一方、妻もハンバーグに満足そうだった。
「めっちゃあっさりしてる」
肉汁たっぷり系というより、優しい味わいで食べやすいらしい。
添えられた惣菜もどれも丁寧な味付けで、体にすっと入ってくる感じがする。
「健康に良さそうなランチやね」
と妻。
私は頷きながら、
「健康のために太れそう。」
と適当なことを言った。
もちろん、笑われた。
食後には、地元オレンジのパウンドケーキと、その日限定のバニラチーズケーキもいただく。
自家製らしく、香りが柔らかい。
工場で作られたお菓子とはまた違う、“手作りの温度”みたいなものを感じた。
お腹も気持ちも満たされたところで、私たちは今回の旅のメイン目的地へ向かう。
次に訪れるのは、話題のテーマパーク ニジゲンノモリ 。
このカフェから、車で10分ほどの場所である。
🔽ごはんとおやつソロルのシーンから
想像以上にハードだった、ニジゲンノモリの冒険

「ごはんとおやつ ソロル」を出ると、再び海岸線へ。
そこから今度は山の中へ入っていく。
今回の旅のメイン目的地、ニジゲンノモリ は、山を切り開いて作られた巨大なアニメパークらしい。
敷地への入場自体は無料ということもあってか、かなり賑わっていた。
駐車場もほぼ満車。
なんとか奥のほうに停めることができたが、そこからさらに目的地探しが始まる。
どうやら、ドラゴンクエストエリアはF駐車場側。
一方、進撃の巨人エリアはE駐車場側らしい。
「絶対わからんやつやん……」
と思ったものの、案内表示がしっかりしているので、意外となんとか辿り着けた。
どちらも世界観の作り込みはかなり本格的で、ファンなら歩いているだけでも楽しいと思う。
特に、ドラゴンクエスト好きの私にはたまらなかった。
プレイヤーは“冒険者”として、ドラゴンクエストの世界を実際に歩いていく。
街で情報を集め、森を探索し、アイテムを手に入れ、時にはモンスターとも戦う。
最後は魔王城へ向かうという、まさに王道RPGそのもの。
しかも、自分の足で。
……そう、自分の足で。
ここ、大事である。
公式では所要時間およそ3時間とのこと。
だが、私たちは途中でリタイアした。
なぜなら、想像以上にハードだったからだ。
炎天下の中、立ちっぱなしで歩き続ける。
しかも序盤で少し詰まり、なかなか先へ進めない。
気づけば、疲労だけがどんどん蓄積していた。
「もう足が棒や……」
周囲を見渡すと、他のお客さんたちもどこか虚ろな表情をしている。
ベンチで動けなくなっている人もいる。
どうやら、みんな同じことを思っていたらしい。
とはいえ、満足度はかなり高い。
世界観への没入感は本当にすごかった。
だからこそ、これから行く人にはひとつだけ伝えたい。
体力、大事。
本気で歩くことになるので、動きやすい靴と最低限の体力は用意しておいた方がいい。
そんなことを思いながら、私たちは予定より早めに切り上げ、宿泊先の グランドニッコー淡路 へ向かった。
🔽ニジゲンノモリのシーンから
庶民、スイートルームに泊まる

宿泊先の グランドニッコー淡路 は、淡路夢舞台 の中に建っている。
海を見下ろすように佇む姿はなかなか立派で、遠くからでも存在感があった。
到着すると、スタッフの方がすぐに声をかけてくれる。
「いらっしゃいませ。お荷物はいかがいたしましょうか?」
「あ、自分で持っていきます!」
反射的に答えてしまった。
今思えば、少し警戒しすぎだったかもしれない。
こういう接遇を受け慣れていない庶民なのである。
地下駐車場は想像以上に広かった。
ショッピングモール並みと言えば伝わるだろうか。
そこからフロントへ向かうエレベーターに乗ると、一輪の花が飾られていた。
それを見た妻がぽつりと言う。
「ちゃんと生花やね。」
花に詳しい人の着眼点は違う。
そんな妻のチェックを無事通過し、フロントでチェックインを済ませる。
すると、思わぬ提案があった。
「本日、ジュニアスイートのお部屋が空いております。」
一瞬だけ考える。
そして、
「アップグレードをお願いします。」
即決だった。
スイートルームなんて人生で何度も泊まれるものではない。
こういう経験も旅の醍醐味である。
さらに驚いたのは、その後だった。
「それでは、お部屋までご案内いたします。」
この言葉をホテルで聞いたのは何年ぶりだろう。
もしかすると数十年ぶりかもしれない。
その時点で、私は確信していた。
——これは良いホテルだ。
部屋に入ると、スタッフの方が設備を案内してくれる。
「こちらのお部屋は、リビング側から朝日を、ベッドルーム側から夕日をお楽しみいただけます。」
なんという贅沢だろう。
私は平静を装いながら話を聞いていたが、心の中ではずっと
「うひょー!」
と叫んでいた。
部屋をひと通り見学したあと、夕食までラウンジで休憩することにした。
ホテル内のショップで販売しているケーキをいただけるらしい。
妻は迷うことなくモンブラン。
筋金入りのモンブラン好きである。
私はショートケーキを選んだ。
一口食べて、すぐに違いがわかった。
いちごが甘い。
クリームも濃厚。
シンプルなケーキなのに、妙に満足感が高い。
もちろん美味しかったのだが、それ以上に感じたのは
「そりゃ美味しいよね。」
という納得だった。
ここまでのサービスと雰囲気を味わってしまうと、むしろ期待通りで安心する。
そんな気持ちで最後の一口を食べ終える。
そして、いよいよお楽しみの夕食バイキングの時間がやってきた。
地産地消への本気度がすごかった
夕食と朝食はバイキング形式だった。
正直、最初はそこまで期待していなかった。
ところが会場に入ってすぐ、その考えは変わる。
「これは……本気やな。」
料理を見て回るだけで伝わってくる。
玉ねぎ、魚介、牛肉。
どこを見ても淡路島の食材ばかりだ。
地産地消を売りにしているホテルは珍しくない。
だが、ここは少し熱量が違った。
そんなことを考えながら会場を一周していると、妻はすでに料理を取り始めていた。
いつものことである。
バイキングに対する行動力だけは、誰にも負けない。
私も負けじと参戦した。
玉ねぎのロースト。
淡路牛の角煮。
鯖の南蛮漬け。
イカの和え物。
そして鯛のしゃぶしゃぶ。
どれを食べても外れがない。
気づけば皿を持ったまま何度も往復していた。
「これも食べたい。」
「まだあれ食べてへん。」
そんなことを繰り返しているうちに、満腹という概念が曖昧になっていく。
最後はしらすを山盛りにしたお茶漬けで締めた。
「あぁ、幸せやな。」
そう言うと、妻も深く頷く。
「ダイエットは帰ってから頑張るわ。」
「そやね。」
私たちは笑い合った。
なお、この会話が翌朝の朝食でもほぼ同じ内容だったことを、ここにご報告しておきたい。

🔽ホテルグランドニッコー淡路のシーンから


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